北海道・美瑛「セブンスターの木」が迎えた半世紀の節目——オーバーツーリズムの限界と、農地を守る2026年の静かな決断
セブン スター の 木——北海道美瑛町の小高い丘の上にぽつんと立つ一本のミズナラは、1976年に昭和の煙草パッケージを飾って以来、この土地のシンボルとして愛され続けてきた。澄み切った北の空と幾重にも重なる畝の美しさ、そして季節ごとに色を変える作物のグラデーション。その中心に静かに佇む木を一目見ようと、2026年の今も国内外から年間多くの旅行者がこのパッチワークの路を訪れている。
だが、その美しい風景の裏側では長年、観光客による私有地への侵入や違法駐車といった問題が絶えない。広大な小麦畑やジャガイモ畑は映える撮影スポットである以前に、農家が汗を流して作物を育てる大切な生産の場だ。地域が誇るセブン スター の 木の景観をいかに次世代へ引き継ぐか、観光のあり方そのものが大きな転換期を迎えている。
1976年の記憶から半世紀:パッケージを飾った「昭和の一枚」が持つ歴史的価値

半世紀前、全国の愛煙家に届いた箱のデザインが、ひとつの田舎町を日本屈指の観光地に変えた。美瑛町北西部の丘陵地帯に位置するこのミズナラは、当時の日本専売公社(現JT)が「セブンスター」の限定パッケージ写真として採用したことで注目を集めた。
当時の日本の旅行ブームと相まって、車やバイクを駆って丘を巡る観光スタイルが定着。かつては名もなき一本の木に過ぎなかったミズナラは、美瑛の「丘の風景」という概念そのものを象徴する存在となった。2026年現在、昭和の流行を知る年配層からSNSを通じて新たな魅力を知った若年層やインバウンド客まで、訪れる人々の世代は多彩だ。
「写真映え」の裏で悲鳴を上げる農地:過熱する2026年のオーバーツーリズム

問題は、その人気が土地の許容量を超えてしまっている点にある。特に早朝の朝もやが広がる時間帯や夕刻のサンセット時には、周辺の狭い町道が車で埋め尽くされる。路肩への放置駐車によってトラクターやコンバインなどの大型農機具が通行できず、営農活動に支障が出る事態が頻発しているのだ。
さらに深刻なのが、写真映えを求めて観光客が立ち入り禁止の農地へ足を踏み入れる行為だ。靴の裏についている病原菌が土壌に混入すれば、その年の作物が全滅する恐れすらある。「綺麗な写真を撮りたいだけ」という軽率な一歩が、農家の生活を直接脅かしている現実に、地元関係者の危機感は強い。
「木を守る」のではなく「農地を守る」:地元農家と自治体が打ち出す新たな観覧ルール

こうした状況を受け、美瑛町と地元農家、観光協会は一体となって新たな対策を講じている。かつて近隣にあった別の有名樹木が、私有地侵入の激化や木の老朽化によってやむなく伐採された苦い記憶が、地域の危機感を後押しした。
現在では、セブンスターの木周辺の立ち入り可能エリアが明確にロープや木製フェンスで区切られ、見張り員やボランティアによるマナー啓発活動が強化されている。「景観を見せるための木」ではなく、「日常の農作業が行われている環境こそが本質」という理念のもと、観覧者のマナー徹底を強く促す方針が貫かれている。
ドローン撮影制限とマナー厳格化:変わる撮影者のエコシステム
近年、急増した空撮ドローンによるトラブルも新たな課題だ。上空からのダイナミックな映像を狙う撮影者が、私有地の上空を許可なく飛行させたり、農作業中の作業員に接近しすぎるケースが報告された。
町は航空法に基づく手続きに加え、独自に主要景観ポイント周辺でのドローン使用に関するガイドラインを策定。指定エリア以外での飛行禁止を周知徹底するとともに、悪質なルール違反に対しては厳格な対処を講じている。静寂な風の音と鳥のさえずりが響く丘の本来の姿を取り戻す試みが進行中だ。
持続可能な観光税と環境保全基金:2026年における地域還元モデル
観光による負荷を地域が一方的に背負う構造からの脱却を目指し、美瑛町では環境保全を目的とした新たな財源活用が進んでいる。駐車場利用料の一部や寄付金を活用し、周辺道路の整備や誘導員の配置、さらには木の健康診断や樹木医による定期メンテナンスの維持費へ充てる取り組みだ。
観光客から得た資金をダイレクトに景観保全と農家支援へ循環させる仕組みが構築されつつある。単に観光客を排除するのではなく、正当なコスト負担を通じて美瑛の美しさを支えるパートナーになってもらう——これが2026年現在の地域が選択した答えである。
四季の表情と旅の心得:セブンスターの木を訪れる人々へ
夏には緑鮮やかな畑と青空のコントラストが広がり、秋には黄金色に輝く波のような丘が遠くまで続く。冬になれば、見渡す限りの銀世界の中に黒々と立つ孤独で力強いシルエットが浮き上がる。セブンスターの木は、季節と時間ごとに全く異なる表情を見せてくれる。
もしこの場所を訪れるなら、アスファルトで舗装された指定の観覧場所から静かにその姿を眺めてほしい。一歩も舗装路から外れずにシャッターを切ること、そして風の渡る丘の音に耳を澄ませること。それこそが、この50年の歴史を紡いできた大地と、そこで生きる人々への最大の敬意なのだから。 (出典: セブン スター の 木(Yahoo!ニュース))