2026年、変わりゆく北の大地——かつての「CMの聖地」はいまどこへ向かうのか?美瑛の農地景観と観光が交差する最前線
マイルドセブン の 丘は、1970年代のテレビCM放映をきっかけに日本中の旅行者の憧れとなった、北海道美瑛町を代表する景観スポットだ。ゆるやかな丘の尾根に一直線に並ぶカラマツの防風林。澄み渡る青空やドラマチックな夕焼け、そしてどこまでも続く銀世界をバックに佇むその姿は、半世紀近くにわたり「北海道の原風景」として人々の記憶に刻まれてきた。しかし、時代の波はこの美しい丘の表情を容赦なく変えていった。2018年の樹木伐採という大きな転機を経て、2026年の今、この場所は単なるノスタルジーの対象にとどまらず、オーバーツーリズムと地域営農のあり方を問う議論の渦中にある。
現地を訪れると、吹き抜ける風の冷たさと濡れた土の匂いが五感を刺激する。カメラのレンズ越しに見る世界と、現場に漂うリアリティとの間には明らかなギャップが存在する。観光客が次々とシャッターを切る傍らで、巨大なトラクターを走らせる地元農家の日常がそこにはある。世界中から旅行者が押し寄せるなかで、マイルドセブン の 丘という存在が抱える光と影は、私たちが観光とどのように向き合うべきかという本質的な問いを投げかけている。本記事では、この地がたどってきた歴史と2026年現在のリアルな姿、そして未来への模索を現地取材の視点から紐解いていく。
時代を超えて引きつける「CMロケ地」の原点と歴史

なぜ、これほどまでに一筋の木々が人々を惹きつけてやまないのか。その歴史は1977年にさかのぼる。大手タバコブランドのパッケージデザインやTVCMに採用されたことで、一躍全国区の有名スポットとなった。当時、高度経済成長を経て都市化が進む日本において、美瑛の地平線と広大な丘陵地帯は、失われつつあった癒やしと解放感の象徴として消費されたのだ。
昭和から平成、そして令和へ。メディアの主役がテレビからSNSへと移行しても、この場所が放つ独特のビジュアルインパクトは衰えなかった。InstagramやTikTokの波に乗って海外からのインバウンド客が一気に増えたことも、この丘のストーリーをさらに複雑なものへと変化させていった。
「あの木々が消えた」伐採の真相と変化した風景

2018年、全国の旅ファンに衝撃が走った。防風林として植えられていたカラマツの一部が伐採されたのだ。ネット上では悲鳴にも似た声が上がったが、そこには観光地としての都合ではない、農業現場の切実な事情があった。
樹木の老朽化による倒木リスク、そして成長しすぎた木々が作物の日当たりを遮る問題。もともとこの木々は観光用ではなく、過酷な風から畑を守るために植えられた実用的な農業設備だったのだ。木が短くなり、すっきりとした景観に変わった今もなお、その地平線の美しさは健在だが、伐採劇は「観光客が見ている風景は、誰かの生活基盤である」という事実をあらためて突きつける結果となった。
2026年、過熱するオーバーツーリズムと農地侵入の壁

2026年現在、美瑛町が直面している最も深刻な課題がオーバーツーリズム問題だ。特に、映える写真を撮影するために農地へ無断で立ち入る観光客の行動が、長年地域を悩ませ続けている。
美瑛の美しい丘は、すべて個人の所有する畑だ。靴の裏に付着した害虫や病原菌が靴底を介して畑に持ち込まれると、農作物に甚大な被害が及ぶ。「たった一歩」の侵入が、農家にとって一年の苦労を台無しにする脅威となり得るのだ。町や観光協会は看板の設置やパトロールを強化しているものの、言語の壁やマナー意識の欠如により、トラブルは後を絶たない。
観光と営農の調和を目指す地元の取り組み
摩擦が続く一方で、地域側も手をこまねいているわけではない。近年では、観光客と農家の双方が尊重し合える環境づくりに向けた新しい試みが加速している。
例えば、農地に足を踏み入れずに安全かつ最高の角度から撮影できる指定展望エリアの整備や、スマホアプリを活用した多言語でのルール周知システムなどが導入されている。また、ガイド付きツアー限定で特定エリアの立ち入りを許可するなど、「正しく楽しむ」仕組みづくりによって、マナー違反を減らしつつ地域の経済循環につなげる取り組みが実を結びつつある。
いま訪れるなら知っておきたい季節の魅力と撮影ルール
四季折々でまったく異なる表情を見せるのも、この地域の大きな魅力だ。春には雪解けの土と緑が交じり合い、夏には青々と茂る作物と爽やかな風が丘を渡る。秋には黄金色の小麦畑が広がり、冬には一面の白銀の世界に立ち尽くす木々が静寂を纏う。
もしあなたが現地を訪れるなら、守るべき鉄則は極めてシンプルだ。「舗装された道路から出ないこと」「ゴミは必ず持ち帰ること」「農作業車の通行を妨げないこと」。これらを徹底するだけで、農家も旅行者も気持ちよくこの絶景を共有することができる。
未来へ継承する北海道のパッチワーク景観
かつてCMの背景として消費された風景は、今や「持続可能な地域社会」を映し出す鏡となっている。木々の形が変わろうと、季節が移り変わろうと、この大地が持つ本質的な力強さは変わらない。
2026年、私たちはただ美しい写真を撮るだけの観光から脱却し、その風景を育む歴史や人々の暮らしに敬意を払う旅へとシフトしていく必要がある。美瑛の風に吹かれながら丘を眺めるとき、そこにあるのは一瞬の流行ではなく、何世代にもわたって紡がれてきた大地と人間の営みなのだ。 (出典: マイルドセブン の 丘(Yahoo!ニュース))